大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(ワ)303号 判決 1965年6月23日

原告 株式会社倉本商店

右代表者代表取締役 倉本泰光

右訴訟代理人弁護士 箱田精一

同 中島登喜治

同 吉岡秀四郎

同 野村雅温

被告 大阪商船三井船舶株式会社

右代表者代表取締役 進藤孝二

右訴訟代理人弁護士 森俊夫

同 渡辺昭

被告 金子和助

<外一名>

右両名訴訟代理人弁護士 竹上半三郎

同 横田武

同 梅沢秀次

同 竹上英夫

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

(一)別紙物件目録記載の土地が被告大阪商船から被告金子和助、同中野三四一に所有権が移転され(昭和三二年七月二六日登記)、右被告両名は原告他三名を相手に東京地方裁判所に建物収去土地明渡請求事件(同裁判所昭和三二年(ワ)第六七四五号)を提起し、その訴訟において右被告両名は甲第一九号証として原告が本訴で偽造の確認を求めている文書を提出した事実及び右訴訟は昭和三四年一〇月二八日原告等が敗訴の判決を受け、控訴、上告も棄却となって確定した事実は当事者間に争いがない。

(二)  ところで、民事訴訟法第二二五条に規定する書面の真否確認の訴は、その目的たる法律関係を証する書面の成立の真否確定によって直接に原告の権利または法律上の地位に存する危険乃至不安が除去解消することができる場合、換言すれば、法律関係を証する書面の成立の真否が判決で確定されることによって当事者間では右書面の真否が争えない結果その書面に記載されている法律関係の紛争自体も解決されると同様の効果を有する場合に限って許されるものと解さなければならない。その書面の真否の確認だけでは未だかような危険乃至不安を解決できず、その解決のためには更に進んで当該権利または法律関係自体の確認を求める必要のあるような場合には、右訴は許されないものと解するのを相当とする。

(三)  本件について、これを前記争いのない事実及び原告主張事実によって検討する。

原告が本訴において偽造の確認を求める書面は、昭和二二年五月一八日に原告が被告大阪商船に対し借地の申込をした等の事実を明確にするため前記訴訟において被告金子和助、同中野三四一から提出されたものであり、これに対して大阪商船は承諾を拒絶したというのであって、右書面の偽造であることが確定されれば被告等の右主張は虚偽のものとなり、一方被告等は原告から借地の申込のあった事実は認めているのであるから、原告はこの真正な申込書面(昭和二二年七月二六日付)の取寄または提出命令を申請し、その結果原告の前記土地に対する借地権が確認されることになるというのである。

しかしながら、原告と被告金子和助、同中野三四一両名(右被告両名は被告大阪商船の特定承継人である)間においては、前記土地について建物収去土地明渡の確定判決が存在して紛争は終局的に解決し、原告は請求に関する異議によるなら格別これを争い得ないばかりか、仮りに前記甲第一九号証の偽造であることが確定されたとしても、原告の主張に基いてすらこれによって昭和二二年五月一八日の借地申込の事実が存在しなかったことが確定されるだけで(そもそも過去の事実の存否の確定はそれ自体確認の訴の対象とならない)、直ちに原告が目的とするような前記土地に対する原告の借地権が確認されて当事者間のこの点に関する紛争が解決されることにはならないのである。寧ろ、原告が右借地権の確認を求めようとするならば、借地権それ自体の確認を求めなければならない(但し、前記確定判決の既判力の関係で原告が主張するような借地権が認められるか否かは疑問である)。

従って、原告が本訴で真否の確認を求める書面(いわゆる甲第一九号証)は証書真否確認の訴の対象となり得ないのみならず、右書面の真否の確認を求める利益も存しないものといわなければならない。

(四)この点に関し原告は

(1)民事訴訟法第二二五条が法律関係を証する書面であることのみ要件として規定しそれ以外何の制限も加えていないこと、更に進んで証書の真否確認の訴はそれ自体において特別の利益がある旨主張するが、この訴にもいわゆる即時確定の利益が存しなければならないことは確認の訴の一類型として同様に解するのが相当である。

(2)また、民事訴訟法第二二五条の規定の沿革として、旧民事訴訟法第三五一条乃至第三五六条を根拠とし旧法においては証書の成立の真否につき中間判決の制度が存在したが、右現行法条は広くこれを独立の訴として認めたものであるとも主張するが、右旧法の法条はその位置、体系からみるならば現行民事訴訟法第三一一条乃至第三三二条(殊に第三二七条乃至第三三一条)及び鑑定に関する規定(同法第三〇一条乃至第三一〇条)に対応し、これに吸収されたと解するのが相当で、確認の訴について規定した同法第二二五条と直接関連すると解する見解には、にわかに賛成できない。

(3)更らに書面が別訴等において証拠として利用価値あるとき、偽造文書行使罪の告訴、偽証罪の告訴、再審請求、損害賠償請求等のため偽造であることの確認を求める必要がある旨の主張については、書面の偽造確認はこれら告訴、再審請求、損害賠償請求をなすための必要的要件ではないことは明らかであるから、右主張も採用できない。

(4)その他本件訴が適法である旨の主張は、いずれも前記当裁判所の見解と異る理論を前提とするもので採用の限りでない。

(5)以上述べたところから明らかなとおり、原告の本件訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 定塚孝司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例